妹が生まれる少し前、産婦人科へ行く母につれられて、
広島そごうのショーウィンドーの前を通った時、
ミィちゃんに出会いました。
ミィちゃんはショーウィーンドーの中で、
ツンとおすましをしていました。
毛並みはシルバーで尻尾と耳はチャコールグレー、
青い目をしたシャム猫のぬいぐるみでした。
多分、子供が持つにはいいお値段だったように思うのだけれど、
母は、オオゴシが産婦人科の待合室で母の診察が終わるのを、
ずっと待っている間の遊び相手になればと思ったのかもしれません。
あるいは、もうじき生まれてくる妹の世話などで、
オオゴシがさみしい思いをするのでは?と思ったのでしょう。
何回目かのショーウィンドーの前を通った日、
そのシャム猫のぬいぐるみを買ってくれました。
オオゴシはそのぬいぐるみをミィちゃんと名付けてかわいがりました。
妹が生まれてからは、妹とミィちゃんと遊ぶようになりました。
妹が物心ついた頃、ミィちゃんは妹のものになりました。
妹はミィちゃんをとてもかわいがって、
どこへ行くのも一緒、寝るのも一緒、肌身離さず持っていました。
悲しいことに、オオゴシの家族は、
妹が生まれてすぐ、父と母の心がすれ違うようになっていました。
親族が集まっては、離婚の話し合いに何度もなりました。
今となっては、過去の出来事ですが、
まだ小さかった頃は、
父と母が言い争いをする光景を見るのは本当につらいものでした。
オオゴシは妹より4つ年上なので、
学校など、心の痛みを発散する場所があったのですが、
当時まだ小さかった妹の心は計り知れないほど不安で、
心細かっただろうと思います。
そんな妹の心の支えだったのが、
幼い妹にとって、ゼッタイに裏切らない存在が、
ぬいぐるみのミィちゃんだったのだと思います。
妹は、ミィちゃんをとてもよくかわいがりました。
小学生になっても、中学生になっても、
高校生になっても、ミィちゃんを手放そうとはしませんでした。
買った当時は毛並みのよい猫だったのに、
ずーっと毎日妹と一緒にいたミィちゃんは、
ところどころ下地が見えていたり、
首がくたくたで今にもとれそうだったり、
目にたくさん傷がついていたり、
普通のぬいぐるみなら、もう捨てられてしまいそうな、
ぼろぼろのシャム猫になってしまいました。
どんなにミィちゃんそっくりの、
シャム猫のぬいぐるみを買っても、
妹はミィちゃんじゃないとダメなようで、
他の猫には見向きもしませんでした。
ミィちゃんを手放せない妹のことを、
ちょっぴり心配した時期もありましたし、
彼女も、自分がミィちゃんを手放せないことを、
十分自覚していました。
けれど、あのさみしい思いを一緒にともにした姉としては、
妹の気持ちは痛いほどわかっているし、
ミィちゃんがいることで、妹が心のバランスを保っているなら、
妹にとって、ミィちゃんは必要なものなのだ、と思っていました。
彼女が結婚する前、オオゴシがたまに実家に帰ったときも、
彼女のベットの枕元には、ミィちゃんがいました。
オオゴシは実家に帰る度、
「まぁた汚くなったねー、ミィちゃん。」と、
ミィちゃんに挨拶していたものでした。
そんなミィちゃんが現役を引退する日が来ました。
妹に子供が産まれた日です。
自分を必要とする人の存在、
愛情をそそぐべき存在の誕生で、
ミィちゃんは晴れて引退の日を迎えました。
今、ミィちゃんは実家の妹が住んでいた部屋のベットで、
静かに余生を送っています。
ミィちゃんがオオゴシの元に来て、
そして、妹にかわいがられて、22年目のことでした。
オオゴシにとっても、妹にとっても、
大切な大切なぬいぐるみ、ミィちゃん。
22年!よく冗談で「化け猫ミィちゃん」と、
呼んでいたことはあったけれど、
本当に化け猫にならないでね、ミィちゃん。
そんなこんなで、クロネコを見て、
ミィちゃんのことをふと思い出しました。
あのクロネコ、妹もゼッタイかわいいって言うだろうな。
妹のも買っちゃおうかな…とますます心が揺らぐ、
オオゴシなのでした。
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